※この記事はsakefan.net掲載記事(2018.01.05)の転載です

三年ぶりの郡山

こんにちは。けんけんです。
今回は3年前に1年間かけて米作りから酒造りまで通った福島県郡山市の蔵元「仁井田本家」を訪問したレポートです。
郡山駅から蔵元へ向かう中、途中新しくショッピングセンターが建っていたり、景色が変わったところが多い中、久しぶりに訪れた田村町は変わらず田んぼと山が広がる景色でホッとしました。仁井田本家は自然米から造る自然酒を先代が醸しはじめてから50年を超えます。

敷地入り口の看板と入ってすぐに出迎えてくれる大樽。

「金寶自然酒」から「にいだしぜんしゅ」へ。

より日本的な平仮名で「しぜん」をアピールされるそうです。色々なお話を営業部の内藤さんから伺いました。
デザインは「若い人や女性にも手に取ってほしい」という思いを込めて、郡山出身の方へ依頼。今まで呑んでくれている方々は理解してくれるという信頼の気持ちもあった上でより多くの方に親しんでいただけるものを目指されたというお話でした。その効果は徐々に実感されているとのこと。最初に甘酒や貴醸酒のラベルデザインを変更し、色々な方の反応を伺いながら今回、メイン銘柄である「しぜんしゅ」のラベル変更を行われました。ここからまた新しい「にいだしぜんしゅ」の歴史が紡がれていくのですね。ドキッとするくらいシンプルなデザインに心意気と優しさを感じました。

この「しぜんしゅ」のラベル変更だけでなく、仁井田本家は今まで以上に「自給自足」を目指して自然米を生酛で醸すお酒を基本にした酒造りを基本とする形へ進んでおられました。そもそも「自然米」は地域の田畑を守り今の自然環境を後世に伝えていくことを考え「農薬化学肥料無使用」で栽培したお米です。自社田に加えて、地域の契約農家さんがみんな自然米を栽培することで地域の環境が守られ、そのお米を使って仁井田本家がお酒を醸すことで地域の米が消費されるサイクルにより地域と共に活きる開かれた蔵元を目指されています。自給自足の考え方で、地元の自然米から自分たちで造れるものを使って酒を醸すという考えから酵母・乳酸無添加といった考え方や、少し独特な四段仕込みの考え方が採用されています。まだ蔵付き酵母での醸造は多くはありませんが、全量自然米での純米、生酛造りで「しぜんしゅ」を醸しています。

左のピンクラベルが「しぜんしゅ しぼりたて」。 右が「おだやか 福島県産雄町」(福島県内限定販売)。

穏も進化していた!

もう一つの中心銘柄である「穏(おだやか)」。これは現十八代も含め、代々蔵元の名前に引き継がれてきた「穏」の文字をとって現在の十八代蔵元が新しい方向のお酒を醸されたものです。
今は「酒母は白麹・仕込みは黄麹」というかなり珍しい造りをされています。日本酒の麹は一般的には黄麹(オリゼーですね)を使い、白麹は一般的には焼酎に使われる麹(カワチです)です。白麹は黄麹に比べてクエン酸という酸を多く出す麹として知られています。この白麹で酒母を造ることで速醸用の乳酸を添加したり、生酛や山廃をして乳酸菌を取り込んだりしなくても酒母を酸性にすることができるというお話でした。そこに黄麹の麹米を仕込み時に使用することで日本酒らしい味わいも出てきて少し酸が強めな日本酒に仕上がってくるわけです。話だけ聞くと「なるほど」な理論ですが、もちろん色々な調整を経なければ今の味わいは出せないと思います。非常に興味深い造りです。ただ、そんな事を考えなくて単純に「旨い!」といえるお酒なのです。しかしその裏には蔵元さんの色々な試行錯誤と努力があるのだなぁと改めて感じました。
また福島県での販売限定ですが、福島県南相馬市の小高地区で震災後に作り始められた有機栽培の雄町を使用した「おだやか 福島県産雄町」というお酒が発売されていました。福島の頑張りが伝わってくる気がします。ラベルもしぜんしゅと同じテイストでいい感じです。

他にも色々進化しています!

蔵の中も生酛を増やしたため、酒母タンクを倍増されていたり、しぼりたてを瓶貯蔵してフレッシュさを保とうと新しい瓶貯蔵冷蔵庫を造られていたりと蔵そのものも進化していました。また仕込み水の使い方も以前伺っていた時は地下水と山の湧き水の二種類をブレンドされていたのが、今は酒質に合わせて「○○は地下水」「△△は湧き水」と使い分けられていたりと地道なバージョンアップをされていてスゴイと感じました。蔵人にも若い人が増えた気が。。。うれしいですね!
大事なところは変わっていないで、色々なところを進化させるというのはとても素晴らしい事だと思います。

「こうじちょこ」は糀の甘酒を凝縮してつくったお菓子。さんしょ味の山椒も裏山で採れたもの。

蔵の直売所の2階はギャラリーになっていました!「こうじちょこ」は四種類に。気になるさんしょ味は食べて納得の山椒味!原材料は自然米の米糀と有機山椒のみです。是非一度お試しください。
ということで、最近、pen+(地方から発信する日本のものづくり)やOrganic Visionなど色々な雑誌でも取り上げられている「にいだしぜんしゅ」。皆さんも一度飲んでみてはいかがですか。一般的な生酛とは違った生酛のお酒に出会えると思いますよ。


2Fのギャラリーは福島の作家さんの工芸品が並んでいました